先月、私と相棒犬は久しぶりに山登りに行きました。
切り株の傍で休憩していると、ふたり連れの登山者が相棒犬に気づき、こちらに笑顔を向けました。
「わんちゃんに挨拶してもいいですか?」
「うちの犬は怖がりなので、私の横にしゃがんでもらえると助かります!」
以前の私は伝えたい言葉がとっさに出てこなくて、手を伸ばす人に相棒犬が後ずさり、それから吠え、私が赤面するという定番サイクルをたどっていました。その時のことを思い出しながら、私は相手の人と目を合わせました。
相棒犬は、声をかけてくれた人の手の匂いを嗅ぎ、その手に、ほんの少し肩のあたりから体重を預けました。
木のベンチに腰を下ろして、お奨めの山や、テントのことや、調理器具の話をするうちに、相棒犬は私横にいた、もうひとりの登山者の足元で寝転びました。
寝転ぶ相棒犬に、なんだか嬉しそうな様子の今日初めて会った人。ほんの短い時間の共有ですが、彼らの八ヶ岳のキャンプ泊の話には、私は自分が身を乗り出して話を聞いているのに気づきました。目を向けると相棒犬は目を細めたままでした。
私と相棒犬が去り際に、その登山者のひとりが私に言ったのは、意外な言葉でした。
「実は、私は犬にあまりなつかれることがないんです。このコが横で寝そべってくれてちょっとびっくりしました」と。
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犬は嫌な刺激がある時、その刺激を遠ざけるために「吠える」や「歯を当てる」などの行動を試すことがあります。この行動が「吠える」だった場合、「吠える」ことで嫌な刺激を遠ざけることができたなら、「吠える」行動は強化されるので、同じ行動(吠える・咬む)などの行動を選択します。(負の強化と呼ばれます)
今回目を向けたいのは、犬が「嫌だ」と言ったならば
「何が嫌だったんだろう」という部分です。
その「嫌なこと」がない場合、犬はおそらくは別の行動を選択する。
同じことは、犬と仲良くなるのが苦手な人にも言えるかもしれません。
「犬の傍に寄ったら吠えられた」などの状況が続いたなら、次に犬に会った時に、どういう接し方が正しいかわからなくて戸惑うでしょう。犬の次の動きが怖くて緊張するなら、無意識に犬を「じっと見る」かもしれません。犬をじっと見たことで「犬がいて緊張した」状況がなくなる経験(犬が吠えて、飼い主が犬を連れて離れていく)が無意識のうちに負の強化(嫌な状況が、犬をみたらなくなった)になっていたのかもしれません。
犬と仲良くなりたいと思っていれば「犬が離れてほっとした」という表現には、首を傾げるかたもいると思います。ただ、犬の次の動きが気になって「目を離せない(じっと見てしまう)」という緊張感はあるのではないでしょうか。
負の強化は、無意識の行動にも作用します。
「無自覚の行動(見る)」に対して、「無意識の嫌な気持ち(緊張した)がなくなる」状況が伴う。
【負の強化】とは生き物は「嫌な刺激」や「緊張を伴う刺激」を減らすことができた行動は、再度選択するいうこと。
犬にとっての【負の強化】を逆手に取りたいのならば
犬が「嫌だー!!大変だー!!」と大騒ぎをしなくても「今そこにある嫌な刺激」がなくなる経験が必要です。
言い換えると「嫌な刺激を取り除こう」ですが
取り除くタイミングが
「嫌だー!」と叫んでからなのか
「嫌だー!」のちょっと手前なのか
は大きな違いがあることも付け加えておきます。
犬のしつけを
「ほめる(嬉しいものを渡す)」や
「叱る(嫌な刺激を提示する)」
など「物事を足す」をイメージされる方が多いのですが、本当は「物事を引く」部分こそ大事な場面にも目を向けてみて下さい。
犬の「緊張(嫌)!!」に目を向けるのは、「嫌で終えない」ための通過点です。