「叱ったほうがよい」vs.「いやいや叱ってはいけない」
という議論は、たぶん、10年前も今も変わらずなされています。
カバンの中に入っていた会社の大事な書類をびりびりにする犬
ごみ箱から、ゴミを引っ張り出して、部屋中に散らかす犬
トイレシーツをびりびりにする犬
こうした場面に遭遇すれば
たとえ
「叩いて叱れば物に執着する」
「手を怖がって問題行動を悪化させる」
と獣医さんやトレーナーさんに言われたから
叩くことはしないけれど、思わず怒鳴ってしまった…。
そうお話しされる飼い主さんは、決して少なくありません。
果たして
犬のイタズラ行動は叱ったらいけないのでしょうか?
それとも、叱ったほうが良いのでしょうか?
その前に
「叱る」時の目的は
「その行動をなくすこと」であって
「怒りの感情をぶつけること」では決してない
ことは大切です(時として、これが難しいのですが…汗)。
行動学的には
行動が自然に起きる率が減るには、2つの「学習パターン」があります。
- 行動の結果起きていた「いいこと」が起きなくなる。
だから、その行動をやめる。 - 行動をとると、毎回「嫌なこと」が起きる。
だから、その行動をやめる。
まずは、嫌なことから例を出しましょう。
カバンをイタズラするワンコがいました。
飼い主さんは、大きな声で怒鳴って、近くの机をバシンッと平手で叩いて大きな音を出しました。
大きな音が苦手なワンコは、カバンを覗き込むと、毎回「嫌な事」が起きる…と学習したのでカバンをのぞき込むのをやめました。
これが「叱るべきだ」の考え方の元になるものです。
嫌なことが起これば、きっとその行動をやめるはず。
その考え方は決して間違ってはいません。
でも、ここで3つばかり注意が必要になります。
1つ目は、大きな音が苦手ではないワンコもいるということです。それよりも、飼い主さんが自分に注目してくれることにこそ注目するコであれば、叱っているつもりが、ワンコにとっては「いいこと」が起きているという逆効果の状況が起きています。
2つ目は、大きな音が極度に苦手なワンコもいるということです。
その行動はやめるかもしれませんが、音に対してさらに苦手になってしまうと、外の物音を怖がって吠えたり、飼い主さんの手が動く動きに怯えて攻撃行動に出たりといった、カバンをイタズラするとは別の問題が生じることがあります。
3つ目は、叱るならば「毎回」叱る必要があるということです。
実は、ある行動をやめる過程で、ワンコは何度か試し行動を行います。
叱ったり叱らなかったりすると…
『前回はなんだか嫌なことが起きたけど、もう1回試してみたら、大丈夫だった!』
そうしたギャンブル要素が加わった「イタズラ」はますます魅力的になる可能性があります。
つまり、叱るならば、
①その犬にとって楽しい要素がなく
②かつ怯えさせずに
③その行動が起きた時、毎回適切なタイミングで
叱らなければなりません。
特に②と③は、時として難しい場合があるため
「叱るべきではない」という考え方が広まるようになりました。
では「いいこと」がなくなるタイプの学習ではどうでしょう?
例えば
今までカバンを覗くと、飼い主さんが大慌てて飛んで来たり
『今までずっと忙しそう動き回って、こちらを見てくれないママが来た!やった!』
カバンの中に「破けるもの」が入っていて、引っ張りだすと楽しい音がしたり
『ビリビリビリ~!の音がなんだか狩猟ゲームみたいで楽しいんだ!』
のであれば
カバンを覗いても
「破けるもの」が入っておらず(「いいこと」がない…)
ママも全く無関心(「いいこと」がない…)
という学習は少なくとも、愛犬の行動に対するギャンブル要素を与えたり
怯えさせる副作用の心配はなくなります。
ですが「いいこと」が起きない状況を作ったのにも関わらず
イタズラし続けてしまうようなケースも現実にはあるという話もうかがいます。
おそらくは、一緒に生活している中で気が付かないうちに、なんらかの「いいこと」が起きてしまっているのではないかと推測されます。
うーん…ここまで読むと
イタズラ対策には手が打てません!
お手上げです!
と言っているようで心苦しいのですが
私自身は
1つの行動を「なくす」ことだけにこだわらないアプローチを推奨しています。
まず、行動をなくすのに一番簡単な方法は、環境を変えること。
例えば、会社から帰宅後に、大切な書類が入ったカバンを愛犬の手が(口が)届くところに放置するのはやめた方がよいでしょう。
また、環境を変えるだけでなく
別の行動の選択肢を、楽しく示してみましょう。
愛犬がパパやママが扱う「書類」に対して興味津々なのであれば
パパやママが何かを持っているときには、特定の場所で落ち着いてくつろぐ行動を教える方が、行動を止めたり、無視したりするよりよっぽど建設的です。
※行動を止める(マテやオフ、お散歩中に止まる習慣)は、イタズラしていない時にこそ練習しましょう。
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