May 11, 2019

トレーニングの「準備」と「準備の準備」のこと

トレーナーの馬場です。

私は
パピークラスでも
個別レッスンでも
「ほめる練習」をしています。

ここ数年「ほめるトレーニング」という方針で犬育てに取り組む飼い主さんが増えてきました。「ほめる練習」とは「ほめるトレーニング」とは別物?と首を傾げた方もいるかもしれません。

「ほめる練習」では犬が何かをすること【行動の変化】を目的としません。
誤解を恐れずに言うならば、犬に『今の状態のままでいいよ』と伝えることが目的です。
ちょっと分かりづらいので、具体的に説明します。

「オスワリ」を例にします。

多くの飼い主さんが愛犬に最初に教える「オスワリ」ですが
「オスワリの始まり」を練習する機会は多くても

「オスワリをキープする」「オスワリを終了する」
の2つはあえて練習していない場合が多く見られます。

「???」とさらに首を傾げた方、もう少しだけお付き合いください。
横断歩道の信号待ちでの一場面を思い浮かべてみて下さい。
信号が赤に変わってヒトが立ち止まると、犬も止まります。

車道ぎりぎりだとちょっとトラックなどの風圧が怖いから、と少しうしろに下がって待つ飼い主さんもいるかもしれません。
もう少しこっちにオイデと声をかける飼い主さんに、犬が近づいて目線を向けます。
この後「オスワリ」の練習成果が発揮されます。

さて、犬はオスワリしました!
その後の様子も見てみましょう。

オスワリの【キープ】は、犬が横断歩道でずっと座って待つこと。
オスワリの【終了】は、信号が変わって飼い主が歩き出せば、犬も歩き出すこと。
自然に習得してしまう犬もいるので「特に何も練習してないけれど、困っていません」という飼い主さんもいると思います。

反対に
オスワリの始まり(例えば、おやつを見せればオスワリをする)ができても
オスワリのキープはできない(食べたらすぐに立ち上がる)
オスワリの終了ができない(次のおやつを期待して、人が歩き出すと跳びはねてしまう)
などの状況に、思い当たる飼い主さんはいませんか?

これは、飼い主さんの教え方が悪かったというよりも
単に犬が教わる機会が十分なかったのではと思います。

私は「ほめるトレーニング」という言葉には
誤解を生みやすい部分があると思います。
『犬が何か行動する(今の状況と違う状況に変化)した時だけほめる』
と信じている飼い主さんも多いからです。

確かに、トレーニングの多くは行動の【変化】の部分に目がいきます。
・オスワリをする(立ち姿勢からオスワリへ-姿勢の変化)
・ハウスする(ハウスの外から、中に入って伏せる-位置の変化/姿勢の変化)
・飼い主を見る(他の犬を見ていた時に、飼い主に呼ばれて飼い主を見る-目線の変化)
・車に乗る(車の外から中に入る-位置の変化)
・階段を降りる(上段から一段下に前足と後ろ足を交互に置く-足の位置の変化)

実は行動のその後に、「その状態をキープする」ことを教える時も
「ほめる」ことは効果的です。
ただし、この時のごほうびが
「うれしい」気持ちを引き出すと同時に「興奮しない」ものである方が学習がスムーズです。
そんな時に役立つのが冒頭に出てきた「ほめる練習」です。
特に食べ物を使ったトレーニングでは「ほめる練習」は、行動を教えるトレーニングの下準備として必要不可欠です。

また、「ほめる練習の準備」も実は必要です。
トレーニングの準備の準備だなんて、ややこしい…ですが、この部分も大切。

さてその「準備の準備」とは
犬が
どんな時にうれしそうか
どんな時に興奮しすぎるか
サイン(専門用語でいうならボディランゲージ)に気づくことです。
食べ物を使っていても、犬が興奮しすぎていたり、怖がって食べられない時は、それは決して「ほめている」ことにはならないことは、何度も繰り返してお伝えしていきたいことです。

お恥ずかしい話ですが
私はボディランゲージの重要性をあまり理解していなかった時期があります。

私が10年前にしつけ方教室のアシスタントをしていたのですが
「〇〇の練習をします」の前に
必ず犬の状態を口にするクラスの先生に対し、私はこう思っていました。
「どの犬も楽しそうなのに…
わざわざ分かり切っていることを説明するんだろう?」と。

なんとなくわかるけれど何が分からないかわからない…
そんなもやもやした気持ちを抱えていたことを
飼い主さんとお話をお伺いしている時に思い出すことがあります。

『犬が「何かよい行動をしたときだけ」ほめるべきで
そうではない時までほめていたら、犬が我儘になるのでは…』と
不安を口にされる飼い主さんもいます。

だからこそ「ほめる練習」でその不安を解消できるのではと思います。
「ほめる」のは
犬を「おだてる」ことでも「興奮させる」でもないからです。

最後に、愛犬のサインや苦手な状況を周り(ご近所さんや友人、獣医さん、トリマーさん)に伝えられるようになることも、飼い主さんが取り組んでいける「準備の準備」なのではないかと思います。