「寒い!寒い!寒いぃぃぃ!!」ぶつぶつつぶやく…。
「寒い♪寒いっ♪さむ~い♪」と歌ってみる!
変化はないのはわかっていても
気づくとひとりごちている凍える朝のお散歩。
てくてく歩く相棒犬の隣を歩きながら
足の指先の感覚がなくなって
体全体の動きも固くなっているのを感じます。
それでも手や肩がかじかんでしまわないように
お散歩前には姿勢を一回正して肩回しをして伸びをします。
歩きながら両手をグーパーと動かして手が動くのを確認します。
自分の手の指が1つずつちゃんと動くのを確認するうちに、以前、聴導犬のトレーナーさんが私に繰り返し見せてくれた、コインローリング(コインを片手の上で転がすジャグリングの技)を思い出しました。
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私はアメリカに住んでいた頃、大学にい通いながら、休みの日は聴導犬のトレーニングの手伝いに保護施設に通っていました。口髭のあるトレーナーのフランシスさんは、マジックが好きで、お昼休みによくカードマジックやジャグリングを見せてくれました。
その日私は、聴導犬候補のチワワさんをマットに送り出すトレーニングの手伝いをしていました。リード着用での練習では、リードが張らないように気を付けなければならない。
頭ではわかっていても、私はその保護犬さんの動きを追うのが精いっぱいで、リードまで正直見ていられませんでした。短く持ち過ぎたリードは、ふいにぐいっとチワワさんの動きを妨げます。立ち止まったチワワさんは、後ずさる仕草を見せます。2回目のトライアルでのマットトレーニングの出来がどうだったかは…皆さんの想像の通りです。
「うまくできない」と悩む私に、フランシスさんは「こうしなさい」とは決して指示しませんでした。ただ、お昼ごはんの後に、1枚のコインを私に見せてくれました。
フランシスさんが片手でコインを転がすさまに目を奪われて、私は真似をして25セント硬貨を自分の手に乗せてみました。コインは何度繰り返しても床に落ちてしまい、私は直にあきらめてしまいました。
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コインローリングのスキルは私にはまだありません。ですが、彼がその時見せてくれたジャグリングスキルは、お散歩でリードの持ち替える時の、今の私の手の動きに似ています。
お散歩中、リードは引っ張りたくない。でも犬を慌てさせずに【リードを止める】スキルは必要です。犬を慌てさせずに止めるスキルは、リードがたるんだ状態を作るスキルに言い換えられます。例えば、お散歩時のリードを右手でギューッと握った後に、薬指と小指分だけ、力を入れて持っている箇所からすっと外すと、リードには、指1本分の余裕が生まれます。
犬のお散歩中の課題、吠えや引っ張りなどの問題行動は
・引っ張ってるつもりはないけど、リードは張っている
・引っ張りたくないけどリードが緩まない
状況に起きています。
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あの日、フランシスさんの愛犬、ピットブルの女の子が運んでくれたトランプのカードを手に握って、私は手品をじーっと見つめていました。マジックの種を明かせたら、トレーニング力があがるのではないかと思ったのです。結局マジックの種は破れなかったけれど、その時目に焼き付いた風景が、今なんだか自分を助けてくれています。
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白い息を吐きながら歩く朝、畑を走り去る子猫を追いかけようとした相棒犬。張ったリードから、薬指だけ放すと、相棒犬はふっと歩調をゆるめて、こちらをふりかえりました。