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2024年6月25日

犬のお散歩中、止まってみよう

 「今週末に、水道工事のためにお家の前の道が通行止めになります」

私が玄関を開けると、申し訳なさそうに頭を下げながら話す男性の姿がありました。

我が家の向いの土地で、現在建築中のお家の工事に伴う水道工事です。

 

先月から始まった新築工事。工事が始まったはじめの1週間は、相棒犬が大きなトラックが停車する音に、そわそわして「ワン!(音がするよー)」と知らせにきていましたが、最近は工事の時間になると、定位置のクレートにのそのそと入ると、丸くなってお昼寝(朝寝?)を始めます。家の建築の全行程を見る機会はそうそうない!と最近の私は、工事を実は楽しみにしていました。

 

建築物の工事って、面白いです。土台のコンクリート部分の工程では、私は鉄筋らしい部品が次々に地面に設置されるのを眺めて「コンクリートだけではないんだ」と興味津々でした。次の週、コンクリートが固まり、職人さんたちが、コンクリートを流した型を取り除く様子を、相棒犬の散歩がてら、ちらりと見ました。変な表現ですが、巨大なお菓子作りをみているよう。

 

平らだった土台は、今や立体的なカタチを見せており、土台の周りは水道管を埋めるために掘られている様子です。当たり前ですが、職人さんたちは「今の作業はこれ」「次の作業はこれ」がはっきりわかっているので、作業に迷いがありません。

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ふと、先週お伺いしたお家で「お散歩中に止まってしまう犬」のことで相談でお伺いしたお家のことを思い出しました。「次の行動が決まっているから、次の動作を始められる」ということは、犬との生活にも少し当てはまるんです。

 

ご存じだと思いますが、犬は、私たち人間とは、異なる判断基準を持っています。その1つが「嗅覚」です。お散歩中に立ち止まる犬の様子をこっそり見ると、足は動いていないけれど、鼻が忙しくぴくぴくと動いていることに気づきます。

 

この「鼻」が次の動作の判断基準を探しているだけなら、リードを引っ張ってせかすより、傍で待ってあげた方が、犬は次の場所へと歩き出せます。この鼻の様子に、飼い主さんが気づかずに「次はこっち」「早く早く」と指示が飛んでくるような環境では、お散歩中の犬は気が休まりません。

 

今度は、飼い主さん側の気持ちを見てみましょう。昨日は職場から持ち帰った書類の整理で夜遅くまで仕事していたのに、朝のお散歩はママが担当。早朝、お仕事前にお散歩に連れ出す。子供の朝ごはんだって用意するので、朝はいつだってばたばたしている。そう、愛犬の匂い嗅ぎにずっと付き合っている時間はないの。

「すべての匂い嗅ぎは付き合ってられない」そう犬に教えたい。

 

飼い主さんだって0100で決めているわけではなく、「ここは匂い嗅ぎしてOK」「ここはママのペースで歩く」とメリハリを考えているのです。ただ「早く進んでほしい」気持ちから、匂い嗅ぎを待つ時に、犬から離れて待っていたり、無意識にリードを引っ張りながら急かしていることはあるかもしれません。

 

先の「お散歩中に止まってしまう犬」の話に戻りましょう。
訪問レッスンでお伺いした時、私はママさんが「すでに知っている」ことを、改めてお伝えするか、迷いました。できていない部分は伝えたい、ですが「知っていることを指摘される」って、すごく嫌なことだと私は思うからです。ただ、「知識」と「実行」って小さなズレで大きな違いが生じることがある。だから、小さなコツを1つだけ、お伝えしました。

 

ママさんにお伝えしたのは、ママさんの立ち位置のことだけ。それだけで、立ち止まっていた犬の姿勢がよくなりました。そのコは立ち止まって空気中の匂いを嗅いで、まるで何もなかったかのように、すたすたと歩き出しました。周りに苦手な犬も、苦手な物音もしないのに「安全確認する(立ち止まって匂いを嗅ぐ)」のは、人目線にはちょっぴり不可思議ですが、犬目線では普通の行動の1つです。

 

犬について、知っている「知識」が多いほど「飼い主さん自身の小さな動作」は見落としがちになるのかもしれません。

 

私は、建築現場の監督さながら、全体を見る役目を少しだけ果たせたのかなと感じました。

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余談ですが、お散歩から戻ってから、飼い主さんは、お散歩中に会った人に「犬が嫌々歩いていて、可哀そうね」と言われて、落ち込んだ時の話をされました。犬が立ち止まっている様子をじーっと見ている男性からの一言でした。

犬がゆっくり歩いていたり
犬が立ち止まって鼻をひくひくさせていたり

これは、嫌々歩いているというより、ただそういう時間があるだけ。
リードを引っぱりっぱなしなら、飼い主さんが変えられる部分ですが、単に「そのまま」でいい時間だってある。

その瞬間にたまたま歩いてきた人がかけた一言が、言った本人は何気ない言葉でも、相手を傷付ける。私は「私も自分の犬の散歩のとき、嫌だなと感じたことありますよ」とお伝えしすると、ママさんは目を丸くして驚かれました。

 

犬の訪問レッスンを続けてきて思うのは、「知識」や「技術」だけで解決できることなんて、ほんとうは氷山の片隅にすぎないということ。大切なのは、犬の状況を見て慌てない心構えと、それから犬がいろんな経験を積む「機会を作る」ことだけ。

だから、安全に失敗できる場所を、たくさん作って下さい。いろんなことに興味を持って下さい。きっとそれは、愛犬にとっての「新しい楽しいこと」につながる糸口です。